第9回 みんな特別

出版社アールエヌプレスがお届けるニュースレター(隔週土曜日)。編集部の様子と、おすすめの本などを紹介していきます。
rn press 2022.11.12
誰でも

今週の編集部

無事に「USO4」も校了しまして、あとは週明けの見本誌到着を待つばかりとなりました。4回目で作業も慣れているはずなのに、毎回燃え尽きてしまうのはなぜなのでしょう……。

と、校了後すぐに、今日マチ子さんと一緒に長野県駒ヶ根市のトオクさんに行って参りました。行きは特急あずさで、帰りは高速バスを利用しました。

店主の室根さんはもともと靴を作っていて、空間の一角には靴工房があります。空間演出は岩本牧子さん。今日マチ子さんの世界観を大切に守りながら、広い空間をぜいたくに使用した展示にうっとりしてしまいました。

東京よりもぐんと気温が低いせいか、空間が澄んでいてとにかく気持ちがよかったです。複製原画はトオクさんでも販売しています。在庫僅少になっていますが、よければぜひ。

ちなみにサイン会前日の夜は美味しい信州のお蕎麦を、帰りのバスの乗車直前には駒ヶ根名物のソースカツ丼をいただき、ちょっとした食倒れツアーのようになりました。満腹、満腹。

文学フリマ東京「うー17」

11月20日は久しぶりに文学フリマ東京に参加します。「USO4」の発送タイミングを考えると、ちょうど文フリ前後に書店さまの店頭に並び始める……かな? と微妙なタイミングなので、文フリを「初売り」としました。「USO4」の発売日は21日です。

文フリのWEBカタログを見渡すと、昨年「USO3」特別寄稿しくれた「まろりぬ」さんもいらっしゃるようです。お会いできるのが楽しみです。場所は「うー17」です。「うそ」の「う」、で「17」なので、「17歳のうそ」と覚えてくださいね(強引)。そして前回のニュースレターで誰も手伝ってくれないと愚痴ったせいか、途中でひとり交代してくれる方が現れました。とはいえ終日会場にいますので、ぜひお声かけください。

「USO4」参加組、新刊続々

毎回、体当たりで寄稿をしてくれる漫画家の岡藤真依さんの新刊『あなたがわたしにくれたもの』が11月11日に発売されました。失恋オムニバスです。今回の「USO4」で描いてくださった作品も切ない(が、真理)です。岡藤ファンの方、ぜひ。

そして表紙の写真+エッセイをご寄稿いただいたのは少年アヤさん。

少年アヤさんの新しい絵本『うまのこと』が11月21日に発売されます。「男の子でも、女の子でもない。ただの自分でありたい。これは自由を願う、あなたのものがたり。そして、みんなのものがたり。」(版元さんのご案内から)

アヤさんの文章は、毎回涙腺が崩壊します。言葉が身体にしっかり根を張っている方の文章は美しいです。絵本もぜひ読んでみてくださいね。

猫店長モリオの今週のおすすめの本

今週おすすめするのはmiyono『とある暮らし』です。トオクさんで購入しました。この本は福井県に住む人たちに、「福井について」や「ターニングポイント」などについてインタビューしている本です。登場するのは、爆稼ぎしているIT社長でもなく、何か特別なメソッドを発明した人でもない、毎日、社会のなかで日常を過ごしている人たちです。

私は仕事柄、新幹線に乗って出張にでかけることが多いです。新幹線から外を眺めていると街を歩く人たちが見えます。ヘルメットを被った中学生が自転車で畦道を爆走しているのが見えたりすると、今日はラッキーだなと思います。

新幹線から流れる景色を見ていると、「ここにも人が住んでいて、日々を営んでいる」という当たり前のことに感動します。それと同時に、すべては地続きで全部つながっているはずなのに、自分とは遠い場所で、違う世界の出来事のように見えていることに驚きます。

IT社長は“遠くの人”ですが、そう考えるとIT社長も新幹線から見える人も、私から見るとなんとなく同じくらいの距離感です。でも、人はつい大きな声の主に注目してしまいます。

今回、今日さんと出張に行った長野は、2両編成のローカル線でした。ちょうど夕方の高校生たちの帰宅時間だったようで、高校生たちで席が埋まり、とても活気がありました。サイン会にいらっしゃった方は、東京からの移住組も多くて、街はシャッター街のような淋しい感じではありませんでした。

東京や大阪といった主要都市ではない場所に暮らすことはどういうことなのか。都会の端っこの埼玉育ちの私にはなかなか想像がつきませんが、そこでも、もちろん当たり前に時間が流れていきます。

たまたま志賀直哉のエッセイ『衣食住』を読んでいて、そのなかに「ナイルの水の一滴」という短い文章があります。少し引用します。

「人間が出来て、何千何万になるか知らないが、その間に数えきれない人間が生れ、生き、死んで行った。私もその一人として生れ、今生きているのだが、例えて云えば悠々流れるナイルの水の一滴のようなもので、その一滴は後にも前にもこの私だけで、何万年溯っても私はいず、何万年経っても再び生れては来ないのだ。」
志賀直哉『新装版 随筆 衣食住』(三月書房)より

何が言いたいかというと、世の中は「日々を普通に過ごしている人」で構成されていて、誰が特別というわけでもなく、誰もが個性をもつ特別な一人の人間であるということです。それはどこに暮らしていても同じです。

この本は福井の人々の声が収録されます。福井の暮らしも、東京の私の暮らしも、人が生きているという点ではなんら変わりはありません。誰の人生もすべからく特別なはずです。そのなかでどういう選択をして、どう生きるのか。とても考えさせられました。みなさんもぜひ読んでみてくださいね。

次回の更新は11月26日

早いものでもう年末ですね。いま少し燃え尽きているので、次回までにはやる気を復活させたいものです。それでは、次回! よろしければご登録ください。

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